「恋も就職も、すべて漫画のため」23歳新人漫画家インタビュー

同い年の有名人が出てきた時の衝撃は忘れられない。
あれは小6の時、同い年のアイドルがテレビで大人たちと軽快なトークをしていた。
気になってしょうがなかったのに、「まだ差をつけないで(><)」と動揺し見ないフリをした。

そんな衝撃はことあるごとにやってきて、高校の友人が留学していった時も大学の友人が映画の賞を取った時も、同じ思いに駆られた。
「やべーぞ、もう人生本気出してるやつがいるぞ」と心臓がドクンと鳴った。

そんな衝撃を思い出したのは、「最近の若者はなかなか行動を起こさない」なんて話が出た、マッチングアプリPoiboyの担当者さんとの打ち合わせ中。
「人との出会いは人生を広げていく!」の思いのもと、恋愛に限らずいろんな出会いのチャンスを作ろうと奮闘しているアプリだ。
確かに、人との出会いは新しい世界を見せてくれる。特に学校では会えないような自分と違う環境に生きる知り合いは最高だし、友達の存在は本当にありがたい。だから若人には、いろんな人に出会って欲しい!!!と私も思う。ましてや今は、知らない人にだってどんどん出会いを広げられる時代だ。有効利用しないともったいない!
とか言いつつでも、わざわざ行動を起こさない気持ちも、わかる!!!!!

ということで、「じゃあ逆に、どんどん行動して人生に本気出してる人の話を聞いてみよう」と、新しい連載を始めます。
23歳以下ながら、もはや人生をマッハで突き進んでいるやつらに、話を聞きまわる連載。
同世代が「まだまだこれからでしょ」と思っているうちに、既に猛ダッシュしてる人たちって、どんな人なんだろう。なんでそんなに本気になれるんだろう。

ヤナ、23歳新人漫画家の場合

記念すべき第1回目の「本気なやつ」は、千葉県柏市に住む新人漫画家、ヤナ。

「今は、連載目指して物語を作りまくってます。でもキャラクターの造形がうまくいかなくって」

細い体に白い肌、黒縁のメガネ。見るからにインドアのヤナは、細い声で早口で喋る。
「何頼みます?」「録音大丈夫ですか?」と気遣いの言葉を自然に放ち続けてくれる、とてつもなく場の空気を読む人だ。

そんなヤナの”馴染みの店”であるガストで、取材を始めた。いつもここで、5時間も6時間も粘り続けているらしい。

「ドリンクバーと山盛りポテトしか頼まないので、本当にコスパの悪い客です」

と笑うヤナは、至って普通の子なのに、その開花は早かった。
美大2年生の時に持ち込んだ作品で担当の編集者が付き、美大4年の時には大きな賞を受賞しデビューを果たした。
卒業後会社員をしながら漫画を描き続け、半年も経たないうちにまた別の作品で賞を取った。今まで描いた作品はたったの4本。今は会社も辞めて、連載を目指して頑張る日々だ。
あまりにも順風満帆。そう伝えると、大きく首を振りヤナは否定した。

「今も月の半分は餃子屋でバイトしてますし、漫画家先生のアシスタントとして勉強の毎日です。全然全然まだまだです」

とバツが悪そうに言いながら、同行する編集部Aからの「因みに原稿お願いするとしたら値段は…?」という問いかけには、「ページ◯◯円でやらせていただいてます!」と食い気味で答え自分のウリを伝える。売り込みも慣れたその姿は、しっかりとプロの振る舞いだ。一体ここまで、どんな道のりを歩んできたんだろう。

ジブリを見ても“中の人でありたい”と思ってた

和歌山県の田舎で生まれ、お絵かきと物語が大好きな少女として育ったヤナ。
「絵も物語も両方できるのは漫画しかない!」と、小学校の時に漫画家になることを意識し始めたという。

「変な話ですけど、自分のことをずっと作る側の人だと思っちゃってて。ジブリを見ても何を見ても、“中の人でありたい”って、“私もうまく作れる気がする”って思ってました

“変な話ですけど”というのはヤナの口癖だ。他にも「クソ」「ビッチ」と、若者表現を多用する。でも反対に、語る口調は信じられないくらい落ち着いている。

楽しい小学校生活から一転、人間関係がうまくいかない中学生活の中で、「漫画家になろう」という思いをより強くしたヤナ。高校では文芸部で小説書きと部誌の編集に明け暮れた。そうして美大に入学。

「漫画家になろうと小さい時から決めていたのに、実は描いたことが無くて大学から漫画を始めたんです」

絵はずっと描いていたものの、漫画を描いたことはなかった。
人より遅いスタートになったヤナは、徹底的にマンガの分析を始めた。そこから入るのが凡人とは覚悟が違う。

「とにかく模写をして、主人公が登場するコマの傾向とか背景や人物像の配分、そういったことを学んでいきましたね」

真似をして描いて描いて、漫画のイロハを学んでいった。そこから2年後には担当さんに見初められ、更に2年後には賞を受賞。素人目にも、とんでもない努力が伺える。

「デビューが決まった時、“コネなんじゃないか”とか陰口叩かれたけど、その人がモンハンしてた時も私は作品描いてたなあって思って」

今でもヤナは、時間さえあれば模写をするなど基礎勉強を惜しまない。
そんな努力の現場を見せて欲しくて、自宅にお邪魔した。

漫画に関係ないものがない!新人漫画家さんの自宅

ヤナの家は柏駅からバスで約5分。先輩の漫画家さんとルームシェアをしている。
うおぉおおおおお!2つのディスプレイとスマホにトレース台。

当たり前だけど、この人本当に漫画家なんだ!見たことない部屋の様子にテンションが上がってしまう。

並ぶ本棚の漫画には付箋が貼られ、

押入れの手作り神棚の奥には、「連載が決まったら目を描くんです」と小さなだるまが隠されていた。

お風呂場の前に置かれる付箋とペンっていう不思議な光景は、

「入浴中によくアイディアが浮かぶので、すぐメモができるように置いてて。シェアメイトに見つからないように、隠れて裸で書いてます

と恥ずかしそうに説明してくれた。

ここ、暮らす場所なのに!漫画に関係ないものが本当に見当たらない。

カレンダーを見ても、「バイト」と「アシスタント」の文字が並ぶ。遊びは?遊びはどこなの?

「遊んでる暇なんてないですよーそんな暇あったら、作品作りたくなっちゃいますもん」

ヤナが言う「みんな」は、漫画家の先輩たちのこと。ヤナにとっての「みんな」は、他業界の同世代をささない。

(わざわざ描いてくれた、アシスタント先のイラスト。「ものすごく和やかな職場で、先輩方も本当に上手な方ばかり!」だそう。)

食事も何もかも、漫画のため

バイトから帰ってきて作品を練り、アシスタント先から帰ってきて作品を練り、 何も無い日は1日中作品を練る。
ほとんどご飯も食べず、どうしてもお腹が空いた時は食パンをかじるだけだ。

「たまに外食の時も、牛丼とかラーメン屋さんですね」

できるだけササッと食べて、早く帰って作業をしたいからのチョイス。そうやって、少しの時間も惜しんで日々作品作り。
それもこれも、次の作品こそ編集部に認められて、連載を叶えたいのだ。

「取材に通い、担当さんにプロットを出しまくってます。25歳までに、連載は確実に決めたいんです」

漫画のためにだけ、打算的に生きる

あまりのまっすぐさにタジタジになるも、「あれ?じゃあそこまでの情熱の人がなぜ一度就職したんだろう?」と疑問が芽生える。
そう、ヤナは会社員として卒業後の半年を過ごしている。

「私、“普通の人がやっている”ことは経験したいんです。じゃないと、描けないじゃないですか」

へ!?“普通の人がやっている”ことを経験するために、就職したの?「そこまでか!」の表情が私と編集部Aに浮かぶ。

「就活って大人への登竜門だと思うんです。だから、就活を経験しないと大人向けの漫画は描けないと思ったんです。更に言うと、就職しないと会社員の心は描けないじゃないですか」

就活中はリクルートスーツを着ながら面接会場のビルのカフェで漫画を描き、会社員の間は夜中に描いて毎日3時間睡眠。土日はアシスタント業に走り回っていたという。
ヤナ、生活の基準が全て、“漫画のため”だ。

あ!!でも彼氏居るって言ったじゃん!彼氏いるって言ったじゃん!と鬼の首を取ったかのように突きつけるも、玉砕した。

「恋愛はしないといけないと思うんです。じゃないといい作品が描けない。だから、作りました。恋愛感情だけじゃなく、男の生態も知れるから彼氏は本当にありがたいです

……彼氏も漫画のためか。もちろん今は好きになっているものの、特に好きでもないのに付き合い始めたという。
誤解ないように伝えたいが、ヤナは人一倍ピュアな子だ。人に対してまっすぐと誠実に向き合う人だ。
そんな人が、漫画のためならこんなにも”打算”で動けるなんて。

頑張り続ける一番の秘訣は、「その状況を作ること」

ここまで頑張れる理由は何なんだろうか。ヤナは思いを教えてくれた。

「友達ですよね。上京の時盛大に送り出してくれて、今も”絶対夢叶えろよ!”って言ってくれる。応援してくれている人がいる限り頑張るっきゃないし、絶対手ぶらでは帰れないです」

友達の応援だけでこんなにも頑張れるの?と、努力下手の私はどうも納得しきれない。それが何年も、そして毎日も、休みも取らずに続くのだろうか。

他にも「親に学費も返したいし」「今まで目指してきたんだし」と、いろんな理由を次々に教えてくれるが、どうも聞いててシックリこない。ヤナも自分の答えにシックリ来てないようで、少し唸り、自信なさげに呟く。

「どうして頑張れるかっていう感じじゃなくて、頑張るしか無い状況を作ってる、感じかも…」

その答えに一同急に納得する。そうか!「どうして頑張れるのか」じゃないんだ。「頑張る」のはもう決まっていて、頑張るために「頑張り続けられる状況」を作り続けているんだ。考え方の順序が違う。

「“漫画家になる”って公言してきたのもこうやって取材を受けるのも、逃げない理由を作りたいからですよね。心を燃やす状況を、作り続けてるんだと思います

ヤナだって人間だ。頑張れない時だって訪れてしまう。
でもそれは困るから、頑張り続けられる状況を作るんだ。「応援してくれるから」「取材で言ったから」「漫画家の先輩に負けたく無いから」と、どんどん環境を作っていく。

そう、漫画家の先輩と同居したのもそれが理由だ。連載を持つ先輩漫画家との同居は、自分の意識を高く持たせてくれる。25歳までというリミットも、盛大な発奮材料だ。

「別に根拠もない年齢だけど、イメージがしやすいから25。もう時間ないぞ!って自分にハッパをかけ続ける。25までに連載を持てなかったら、死ぬんです」

25に連載を持てなかったら別の道を探す、じゃ無くて、「死ぬ」。別に自殺するなんて意味ではなく、自分を走らせるための大きな大きな燃料だ。「25までに連載を持てなかったら、死ぬ」のだ。つまり、それ以外の選択肢は無いのだ。

人を助けたいし、世界を変えたい
私も漫画に救われたから

そんなヤナの漫画を通しての思いは「人を助けたい。そして、世界を変えたい」というもの。
ヤナ自身、漫画に助けらたことがある。絶望の中学生時代、ある漫画から「人間の可能性は無限大だ」のメッセージを受け取り一念発起して勉強し、難関校に合格した。

「頑張って頭の良い高校に入れたっていうだけなんですけど、その高校に入れたことで人生は大きく変わっていったんで。私は、漫画に救われたんです。だから私も、私の作品で誰かを助けたいし世界を変えたい」

熱い思いに駆られて、毎日毎日努力を続けるヤナだ。

「まあ誰かを助けたいって描いてても、結局描くことで私が助けられてるんですけとね。漫画を描くことで、自分の居場所をキープできてるんだと思います」

「結局は自分のためなんですよね」と照れるヤナは、すごく強いと思う。
自分の心の底を読み取り、弱さを口にする。簡単なようでとっても難しい。
何度も何度も真剣に自分と向き合い、考え抜いてきたからこそ言える言葉だ。

「じゃ、家帰ってネーム描きますー」

と、ひとしきり飲んで食べたあと、ヤナは家に急ぎ帰った。サボったら死んじゃうとばかりに、ダッシュで帰っていった。

ヤナは近い将来、連載を持つだろう。
そして、彼女の名をみんなが知ることになるだろう。
そう思わせてくれるパワーが、ヤナにはあった。

それはオーラなんて曖昧なものではなくて、彼女から漂いまくる”漫画家っぽさ”。
バレバレなほどに、ずっと漫画のことしか考えてない。「これほど努力してる人を見たことがない」。そう思わせる何かがヤナにはあった。
「まあ、ここまで頑張ったし、もう少ししたら連載なんだからやるっきゃないですよね」と語るヤナにとって、漫画家として有名になっていくことはもう夢ではない。簡単に想像出来るそう遠くない未来。

もちろんそれは困難な道だろうが、ヤナは成功する自分をすんなりとイメージしている。そのために努力を続ける覚悟も、当たり前のようにある。
今だって、休みも取らず猛烈な勢いで描き続ける毎日だ。自分をサボらせないために、自分のやる気をキープし続ける努力も惜しまないヤナだ。きっと成し遂げていくだろう。
ヤナほど頑張ることも夢見ることも出来ないけど、まあ私は私で頑張るかー!と家路に着いた。


「12人のイナセなわたしたち」は、まだまだ続きます。
あ!じゃあこれやってみよう!この人に会ってみよう!なんて、小ちゃな何かを始められることを願って。小さなことでもいいんだい。
次回は、「インドで修行してきた売れっ子ヨガインストラクター」。スタイルとメンタル維持のためにあまりにもストイックな美人の日常がそこにはありました。
本気なやつの、パワー堂々といただいちゃいまひょ!

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