「私に悩みはない!」
不自然なほどに言い切る23歳ヨガインストラクターの胸の内

普通と少し違う人生を走るアンダー25を追う「12人のイナセなわたしたち」、初回の新人漫画家ヤナは、笑っちゃうほどのストイックさで衝撃を与えてくれた。
続いて会いにいったのは、ヨガインストラクター・ルカちゃん23歳。

小麦色の肌に長い足、なんつったってノーブラで生活するほど自信に満ち溢れたお美しい方。
いい仕事をするために人並みならぬ努力をしていて……おいおいまたすごいやつかよ!って天を仰いだけど、でもやっぱり人間そんな単純じゃない。

「今、最高に楽しい」って言える人間のその奥には葛藤があると、人間の愛おしさを痛感した夜。

ルカ、23歳ヨガインストラクターの場合

「私、ハッピーオーラすごいからどんどん吸いとって!大丈夫、取られても尽きないから!いくらでもギブしたい!」

出会った途端から放たれるカタカナ混じりのハイテンション会話。驚いて思わず伝えた「ハ、ハ、ハッピーオーラがすごいね」に対しての返答だった。その言葉の圧に、思わずタジタジとなる。

「朝は5時に起きてジョギングして朝ヨガをするのね。寝る前には必ず瞑想をするかな。アユルベーダーの観点から、自分の体質に合う食べ物しか食べないように気をつけてるの」

満面の笑みで日々の生活を教えてくれる。その努力は圧巻だし秘訣を聞きたい気もするけれど、でもなぜかのっけから頭に入ってこない。

「私、悩みとか無いんですよ。えっとね、悩むことは全然ない!」

だって、あまりにも明るいんだもの。その明るさが人間離れしすぎてて、申し訳ないながら心が数キロメートル離れた状態で取材は始まった。「何か、変な気がする」と感じながら。

私は祖母を母として育った
母親が2人居るなんてラッキー

ルカちゃんは、西東京市出身の23歳。母親が17歳の時ルカちゃんは産まれた。中絶をしたいと母親は願ったが、「私が育てるから産みなさい」と祖母が説得し、宣言通り出産を機に祖母が母親となった。父親とは、会ったことはない。

「だから私にとっての親っていうのは、育ての親。つまりおばあちゃんとおじいちゃん。いつでも私のこと褒めてくれるし、ずっと応援してくれる存在」

祖父母と養子縁組をしたため、実の母親とは戸籍上姉妹になった。実の母親は全くルカちゃんの子育てには関わらず、自分の人生を謳歌した。
なんとまあ、ヘビーな生い立ちだ…苦労話が続くかと耳を傾けると、あっけらかんと返って来た。

「家庭の事情で嫌だと思ったことは一回も無いよー!逆に普通の人より家族が多くて母親も2人居て、ラッキー!みたいな感じ。2倍楽しめるもーん。」

ホントかよ!と思わずツッコむ。ホントなのかよ!
全く辛くなかった?思春期も何も思わなかった?さみしいと思ったこと無いの?そんな質問を、投げ掛け続けた。
だって、あまりにも曇りない前向きさが、なんだかやっぱりどうも不自然だ。

出会ってから5時間の間、彼女はママ(産みの母親)への愚痴を一切言わなかった。でもお酒も入った5時間後、彼女はこう言った。

「そりゃずっと恨んでたし、今でも絶対彼女みたいにはなりたくないって思ってる。世界でいっちばん褒めてほしい人は、ママなんだけどね。

何が家族が多くてラッキーだよ!本音は全然違うじゃん!あまりの差に口が開いてしまう。
そんな本音を口に出すには、5時間という時間とハイボールが必要だった。
本音が口に出るまでの5時間の間、一切の愚痴を言わず笑顔も絶やさず「私本当に幸せなの」と言い続けたルカちゃん。
この人、一体どういう人だろう。心の奥底が見たくてしょうがなくなった。

女として生き続ける母と
似たくないのに似てしまうところ

「ママは、いつでも女であり続けている人。私を産んだ後も普通に大学に行き、いっぱい恋をして彼氏を作って、中絶だってした。最近結婚して、2年前に子供も産んだよ」

ルカちゃんを産みながら普通の青春や恋愛を重ねた母。中絶も繰り返した末、今でも女としての人生を満喫している。
そんな“女”であり続けた母親を見て、“絶対母親のようにはなりたくない”とルカちゃんは誓った。絶対に、「女であることで周りを傷つけたくない」と思っている。
それなのに、どうしても母親と似てしまっているところがある。

「私ね、どうしようもなく恋愛体質なの。連絡返って来ないだけで本当に落ち込むし、とんでもなく一喜一憂しちゃう。生活の全部が、恋愛に左右されちゃう。そこが私の、一番の問題なんだよね」

似たくない母親と、どうしても似てる部分。今の仕事を始めたのも、実は男性の影響そのものだった。ああ、恋愛体質。

「初めて付き合った彼と結婚しようと思って、昼の仕事を探した。流行ってたしいいかなってヨガを選んで、とりあえず資格取ってみるかってバリへ修行に行ったんだよね」

高校卒業後、親の勧めで看護学校に入学したものの遊びたい欲求を抑えられず半年で退学。そして、水商売を始めた。その頃出会った彼氏にのめり込み結婚したいと願ったルカちゃんは、昼の職業に切り替えようと職を探し、ヨガインストラクターの道を歩みだした。

「なんとなく始めたのに、“あ、これだ”って思った。そこからすごく変わったと思う。周りにもあんたはヨガに救われたねって言われる。」

“流行ってるから”でなんとなく始めたヨガ。たった一つのポーズも知らなかったのに、「どうせなら短期間で資格を取りたい」とネットで検索し、バリへ飛んだ。そこで1ヶ月間のヨガ修行を行い、その後更にインドで2ヶ月の修行。そして彼女は生まれ変わった。

「初めて、自分のことを考え出した」ヨガがくれたきっかけ

「ヨガのインストラクターは、生徒さんのことを深く考えなくてはいけない。でも他人に興味を持つことって、自分に興味を持ってないと出来ないって気づいたんだよね。そこで初めて、自分って人のことを考え出した」

なんとなく始めたヨガが、初めて自分と向き合うきっかけをくれた。恋愛体質なことも、母親へのねじれた思いもその時に初めて気が付いた。

「お酒を飲み出したら止まらないところとか、お金遣いが荒いところとか、そういう弱さに向き合い続けてみた。もちろん、ママのこととか彼氏のことも」

自分の中での母親の存在の大きさに気付き始めた頃、母親から「妊娠した」という連絡が届いた。

「こんなにも辛くてこんなにも頑張ってる時に、どうしてそんなこと聞かされなきゃいけないのかって腹が立った。けど、“いい加減母親とちゃんと向き合え”ってことなんだって思った」

母親の報告と時期を同じくして、ルカちゃんはヨガを始めるきっかけとなった彼氏とも別れた。「女として生きた」母親のようにならないように、男への依存を断ち切ったというのは考えすぎだろうか。ヨガを通して、ルカちゃんは生まれ変わりたかった。

そうして考えて考えて、とうとう突破した。

「いっつも悩んでウジウジしてた自分のこと、“なんかダサい!”って思って、“もう悩むのはやめてしまおう!”って決めたの。とりあえず笑顔で過ごすことから始めてみたら、自然にどんどん考え方が変わってきたんだよね」

そう、「明るすぎてちょっと不思議」な印象を与えていた今のルカちゃんは、そんな努力の結果だった。ルカちゃんは今、明るい自分でいようと絶賛努力中なのだ。 今のルカちゃんになってどれくらい?と聞くと、「んー、2ヶ月くらい?」と返ってきた。2ヶ月かよ!

「ヨガは天職!」
自分に言い聞かせ彼女は先へ先へ行く

そんな自己変革中のルカちゃん。自分を変えてくれたヨガに必死に取り組み、3ヶ所のスタジオでレッスンを持ち飛び回っている。この歳で、インストラクターとして生計を立てている人は珍しい。

「始めたことに大きなきっかけなんてないけれど、それが大きな影響を与えてくれることってあると思うんだよね」

としみじみルカちゃんは言った。
そう、別に深い意味があって始めたわけじゃない、でも、取り組むことで変わってきた自分を感じている。そしてルカちゃんはきっと、変わった自分が好きなんだ。

「私ね、ヨガで有名になる気がするの。メディアにも出ると思うし、ヨガ界のマスコット的存在になると思う。成功する気しかしないんだよね!」

そんなアホみたいに前向きな言葉も、言い換えるときっとこう。
そうやって言うことで、自分をそっちへ向けていく。ついつい悩みがちで、ついつい男に踊らされそうで、そんな自分を変えるための彼女の前向きワード。

「私さ、出来ないこと何もないんだよね。本当になんでも出来ちゃうんだもん」

そう続けた。そうやって言い聞かせ、先へ先へ行く。

「一生ヨガインストラクターは続けたいし、20代のうちに自分のスタジオも持ちたい。きっとヨガインストラクターが、天職なんだと思う」

そうルカちゃんは笑った。
「天職」なんて、「やりたい仕事を手にいれた人」だけの狭き門に聞こえるかもしれない。
でもルカちゃんみたいに、「天職」と言い聞かせ必死にやっていくうちに本当に天職になっていくこともあるだろう。

ルカちゃん、23歳。今後どうなるかは全くわからない。なんとなく始めたヨガだもの、急に飽きる時もくるかもしれない。
それに、「ポジティブでいなきゃ!」という呪縛みたいな明るさは、もしかしたら「ちょっと頑張りすぎた!」となることもあるかもしれない。
でもまだルカちゃんは、自分変革の真っ最中。トライアンドエラーの繰り返しだ。
毎日毎日少しずつ理想の自分に近づこうと葛藤し、「幸せだ幸せだ」と笑う姿は、とても人間的に映った。

「今日が一番最高の日だし、明日は絶対今日より最高に決まってる。日々、最高を更新中!」

と笑う彼女は、そう言うことで明日を気持ち良く生きようと頑張っている。

「ママのことも、最近好きなんだよね」

と少し寂しげに、でも誇らしげに、微笑んだ。


「12人のイナセなわたしたち」第2回。
人より少し早めに人生に本気になった「わたしたち」は、明日を楽しく生きれるように、無様なほどに葛藤していた。
まだ若いんだもの、葛藤すればいいじゃない。てか、葛藤した方がいいのかもね。
てか、今葛藤しないと。やばいかもね。

全然予測がつかないこちらの連載、まだまだ続きます。どれくらい頑張ってあなたは生きたいですか?

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