「歳とる前にマジ死にたい」
セックス好きな20歳キャバ嬢が今を生きる意味

「死ぬ理由がないから生きてるだけで、できるだけ早く死にたい」なんて言葉を、ハタチの子から放たれたことがあるだろうか。
今一番やりたいことは“色んな人とセックスをすること”と答える彼女と、2人っきりで飲み通した。

普通と少し違う人生を走るアンダー25を追う「12人のイナセなわたしたち

第5回は群馬県のキャバクラで働く20歳、ミユちゃんに話を聞いた。

常識って、幸せって、なんだろう。私にとっても、試練の回になった。

ミユ、20歳キャバ嬢の場合

東京から新幹線で1時間弱。群馬県高崎市でミユちゃんと出会った。
キャバ嬢のイメージからは程遠く、そこに現れたのは大きいボーイッシュなTシャツにスニーカー、スッピンであどけない女の子。

きらびやかな夜の雰囲気はどこにも見当たらない。
人を待たせるのもお構いなしでチンタラとタバコを買い、途中のカフェでサンドウィッチを頬張る。
「マイペース…!」
出会って10分でバレる自由気ままさを、隠すそぶりもない。

「人間関係はめんどいんで、人と仲良くなるのは好きじゃないっすね。友達も欲しいとか思ったことないですし」

乾いた空気を全身にまとう子。そんな第一印象さながらに、ミユちゃんは10代を、1人で過ごしてきたという。

「周りに縛られるのはめんどいし、だから1人で知らない電車に乗って、駅でボーっとするのがすごい好きでした。学校では、もう「無」。ただただ机に突っ伏して寝続けてた」

「人はめんどいし」とミユちゃんは繰り返す。そんな省エネ少女は、高校での毎日をこう語った。

「高校生の時は、シフト制で一日3人とヤってましたね。朝1人夕方1人夜1人、みたいな。私ね、セックスが好きなんですよ

一日に3人!?!? あまりにも途方もない数字に、「はい?」と素っ頓狂な声をあげてしまう。

「寂しいからセックスするとか、行為で満たされるから、とかそういうのじゃないですよ。そんなん求めてない。ただ純粋に、セックスが好きなんです

純粋にセックスが好き…その言葉の威力に、クラクラする。そんなミユちゃんの毎日は、18歳でキャバ嬢を始めることでスパークする。

「人に相談するのとかめんどいから、ムカつくこととかあると自分の感情を整理して自分で落ち着かせるんですね、いちいち騒ぐのとか疲れるし。だから、1人で生きる女に憧れます」

1人で生きる女をイメージした時、一番理想的に思えたのがキャバ嬢だった。ミユちゃんは、高校卒業と同時に働き出した。

東京へ行き、80人の男と寝る。

キャバクラで働きだしたミユちゃんに訪れたのは、「干渉し合わない」という今まで味わったことのない理想的な人間関係だった。

「キャバクラで働いている人は、他人は他人って感覚の人が多くて、全く干渉してこないし、めっちゃ居心地いいんですよね」

ずっとずっと人付き合いが窮屈だったミユちゃんが、初めてめんどくさい人付き合いから解放された瞬間だった。1つ大きな足枷から解放されたミユちゃんは、どんどんやりたいことに素直になっていく。

お店で知り合ったお客さんに連れてってもらい、東京での遊び方を教えてもらったのだ。東京には、ミユちゃんの大好きなお酒とセックスが溢れていた。

「1人で週2で六本木に行って、飲み屋で出会った人とホテル行くっていうのが最近の生活ですね。ヤり終わって、タバコ吸って、寝て、はい楽しかった!みたいな」

とダルそうに語る。週2で新幹線に乗って東京に行く。そこには、それだけの価値が十分にあるという。

「だって有名人とか金持ちばかりいるし、飲み方がえげつないじゃないですか東京は。すげー楽しいですよ」

と、珍しく明るい声で、東京でナンパされたという俳優さんの写メを見せてくれた。その写真に写る俳優を、私は知らなかった。でもなんだか調べる気にもならなかった。行きずりで出会ったというミュージシャンや社長さんの名前も、そんなにノリ気で聞けなかった。

正直に言おう。
聞いているうちに、なんだか虚しくなってしまったのだ。
東京はサイコーだといい、売れない芸能人に誘われたと喜ぶミユちゃんに、私はなんだか虚しくなってしまった。インタビューアー失格だ。
勝手に虚しくなるなんて私のエゴなのはわかってる。でも、東京を天国みたいに言うなよ! そこで会う“芸能人”が最高みたいに言うなよ! そんなダサいこと、言わないでくれよ!あんたは、幼い時から一匹オオカミでブレない、強い女志望の人間だったんじゃないんかい! なにフラフラしてんだよ!

その思いから、「なんかさー、将来どうなりたいとかあんの?」なんていう史上最高にくだらない質問をしてしまった。

やりたいことはない。死にたい。

将来どうなりたいの? なんていう、しゃらくせー質問を向けられたミユちゃんは、

「は?」

と声に出した。全く浮かばないのか考えたこともないのか、ポカーンとしたのちに、それでも考えてくれた。そして、言った。

「無いっすよね。できるだけ早く死にたいですもん」

死にたいんだー、と、力無く相槌を打った。死にたいと思う気持ちは、私もどちらかというとわかる方だと思う。でも、20歳の子の口からそれを聞くと、どうも体中の力が抜けてしまった。

「1人でスッと姿を消したいですね。つまんなくなったら、安楽死できる国に行って、1人で死にたいです。早い方がいいっすね。」

なんでそんなことを言うんだよー、と茶化すと、「だって私の価値って、すぐ無くなりますもん」と続けた。

「今の私に価値があるってことは、わかってます。でも、歳とったらその価値消えますから。今こんなに何にもしてない私が、いい歳の取り方なんてできるわけないじゃないですか」

何もしてないかな? と異論を唱えると、バッサリと否定した。

「世の中舐めてるし、人生は運とタイミングだと思ってるから努力もしないし。目標もないっすからね。まあ、無理ですよね」

「お! じゃあ、これから人生頑張ってみるか!」と、これまたつまんないことを言ったら、「いやあ、めんどいっすねえ」と返された。
そうだよね、面倒だよね。

発情されなくなったら無理なんで、若さは大事なんです。でも、どうせ歳を取るんで、歳とる前にマジ死ぬしかないっすね」

あー、もう、頼むからもう少しだけ生気のある声を聞かせてくれ! と、私のバカエピソードを繰り広げたり、ミユちゃんをツッコミまくったりした。大笑いしてくれるのに、「じゃあミユちゃんは・・・?」と水を向けると、「・・・はい?」とまた、真顔で返される。

ねえ、なぜなんだろう。どうしてこんなにも、人や世界を、何より自分を、信じていないんだろう。

「家族は大っ嫌いですし、母親からは手を上げられてましたし、小さい時から同級生や先生からはとにかく目の敵にされてましたしね。なんか、いつでも私がターゲットにされるんですよね」

家族にも友達にも恵まれず、先生にもいつもかわいがられなかった。だからこうなったんだよ! なんて安易なことは言いたく無い。何より、「いやー、わかんないっす」と自分のことを自分のことだと思ってないミユちゃんの本心は、探る方法がないように思った。彼女は、自分自身にあまりにも興味がない。

今、幸せな毎日

イキイキとした表情を見せてくれるのがセックスに関する話だけなので、せめてその顔が見たくて散々セックスへの思いを語ってもらった。

セックスは、私の最大の娯楽です。好きとかより前に、ヤりたいっていう思いがくるんです。ヤりたい人とヤれたら最高ですよね。特に人間関係を作る気もないので、たくさんのヤりたい人と、ただヤってたいです」

この後お店で働くというミユちゃんは、ドレスに着替え、髪をアップしてもらい、本当に本当に綺麗になった。その姿は、うっとりするほどに綺麗だった。

スッピンの時にはガニ股で猫背だったことが信じられないくらい、スクッと立って、優雅な笑顔を浮かべる。この子と飲んだら楽しいだろうなあと思わせられる。

それなのに、出勤できる体制を完璧に作ったにもかかわらず、ある男からの「これから東京に来ない?」というLINEを見て、ミユちゃんは新幹線に乗り込んだ。

「私、男に関してのフットワーク軽いんですよね」

この言葉は嘘じゃなかった。「インタビュー終わったらすぐお店に返しますから!」と交わされた私とお店との約束も虚しく、ミユちゃんは東京に向かった。

酒飲んでその先にセックスができれば、なんでも乗り越えられる気がするんですよね。だから今、毎日楽しいです」

なんでも乗り越えられるほどならば、そんなすごいことはない。

「快楽をオッケーにして何が悪いんだって。日本の人はセックスに関してちょっと消極的すぎますよね。私は、このままずっとセックスをしまくる人生がいいですね」

確かに、快楽を解放することは、何も悪くない。全然悪くない。
でもなんだろう、私の中に、まるで呪縛がかかったかのように、何かに取り憑かれたかのように、3日間、気持ちが落ち込んだ。

何かもっと楽しい瞬間がミユちゃんに訪れないだろうか、そんなことを思ってしまうのは、とても傲慢だろう。でもそう思わずにはいられなかった。誰かこの子を、猛烈に愛してくれないか。あとをひく、夜だった。

セックスとお酒をこよなく愛し、ワンナイトラブを繰り返す女の子に出会った。
普通の同世代が経験できないような場所で酒を飲み、出会わないような男たちと逢瀬を重ねている。
色んな生きる場所があるもんだ。


「12人のイナセなわたしたち」、まだまだ続きます。今まで5人の話を聞いて、思っていることがある。
それは、「みんな、何かを掴みたくて必死なんだなあ」ということ。人と一味違う職業の選択は、人より早く大人になっているように見えるかもしれない。でもそんなことない。蓋を開けてみたら、彼女たちだってまだまだ自分の生き方が定まってなんていないんだ。
でも必死に「私は大丈夫」って言い聞かせて、自分を理想の方向へと向けていく。“イナセ”の正体は、「今の自分とは違う何かになりたい」っていう大きな願望な気がしてきた。
ミユちゃん。彼女の生き方がどうかなんて言えない。でも、一年後に会った時、全然違うことを言ってそうな気がする。まだハタチ。いっぱいぶつかって、どんどん変わって、生きていこうや。
ねえ、どれだけ自分の欲望を解放して、あなたは生きたいですか? 何より、今、どれだけ寂しいですか?

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