「私は容姿でチヤホヤされない」
24歳美容部員が男でなくメイクで人生を変えるまで
普通と少し違う人生を走るアンダー25を追う「12人のイナセなわたしたち」
4人目にして今回は、「もう分かりすぎる!」と取材を忘れ大賛同してしまう女の子に出会った。
「美人っていいなー!!」と声にならない叫びをあげる全ての女性たちにおくる、24歳美容部員さやこの話。神奈川県のホルモン屋で、肉を焼きながら話を聞いた。
さやこ、24歳美容部員の場合
自衛官の1人娘として生まれたさやこは、転校を繰り返しながら育った。「太平洋側が肌に合うんですよね」なんて発言の1つ1つが、知的な印象をくれる。
“いい子”で活発だったさやこが少しだけ生き方を変えられてしまったのは、田舎に転校した中学の時。目立つ子の陰口をたたきマウンティングしまくる女子たちの空気に馴染めなかった。はびこるスクールカーストに対して、頑張ることもできなかった。なぜなら転校先で突きつけられた認識があった。
「ニキビ持ちで、デブで、目も小さいし、とにかく自分のことをダサイと思ってたので、“おかしい!”なんて声はあげられなかったですよね」
“自分はチヤホヤされる容姿じゃない”。思春期に突きつけられるこの気づきは、全てを破壊すると言っても過言では無い。
それまでは家族に愛され近所に愛され、人間平等の精神でやってきたはずが、途端に認識させられる“自分は女として埋められないハンデを持って生まれてきたのだ”ということ。
頭の良かったさやこは、自分の外見に大きなコンプレックスを持ちつつ、スクールカーストでもがきまくる女子たちとは距離を置きながら思春期を走り抜けた。
容姿に自信のない少女が、女子たちと距離を置いたのちに拠り所にしたのは、男という存在だった。
女としての自分の価値を感じたい、という欲求
高校2年で初めての彼氏ができ、今に至るまで一度も男は途切れていない。新しい男ができる状態で彼氏とは別れ、二股や浮気も当たり前にやってきた。でもそんな奔放の始まりは、“女としての機能を確かめたかったから”という切ない思いだった。
「初めての彼氏とのセックスがなかなかうまくいかなくて、自分の女としての機能に何か欠陥があるんじゃないかとすごい悩んでた」
そんな悩みにより、初めて彼氏以外の男と最後まですることに成功する。
「初めて最後までできたときは、“私も生きてていいんじゃん!!”って世界が変わった気がした。“私も女なんだ!!”って初めて胸を張れたんです。あの一晩で、ものすごい変われた」
男に抱かれることで満たされる、ではない。自分は男に抱いてもらえる女なんだ、という安心感で満たされる。この2つは、似ているようで全然違う。
自分を求めてくれる男の存在は、分かりやすい自分の価値のバロメーターだ。そうしてさやこは、風俗嬢として働くところに行き着く。大学時代ホテヘル嬢としてアルバイトを始めた。
「自分が“商品として売り物になるのか“が純粋に知りたかったんです。女としての自分の価値が知りたかった。実際働いてみたら、ちゃんと値段がついてお客さんにも喜ばれて、いいことしかなかったですね」
風俗嬢として働くことで、女としての自分の市場価値を知りたいと思ったさやこ。情で包まれた家族や友人からの「かわいい」じゃ本当の価値は分からない。ちゃんと女としての価値を知り、そこからちゃんと生きていきたかったのだ。そこでさやこは、自分の立ち位置を知った。
「客観的に見たらやっぱり、自分がモテる容姿だとは思いません。でもだからこそ、モテるように頑張り続けてきた私は、十分に愛してもらえる価値があるって信じられるようになりました」
風俗嬢としていろんな男性に会い、そこで働く女性たちにも会い、さやこは見違えて強くなったと言う。目の前のさやこは、弱みも強みもしっかり受け止め自信に溢れている。よくまあそこまでいけたものだと感嘆したら、「でもこうなれた最終的なきっかけは男じゃないですけどね」と慌てて訂正した。そして、
「全部変えてくれたのは、メイクなんですよ!」
と、叫んだ。文字通り叫び、そして、「そらみさん、メイクって本当にすごいんですよぉ」と酔っ払いの声で繰り返しながらも、目の奥に涙を浮かべていた。
メイクで人間は、変わるから。
リアルに涙ぐみながら、美容部員としての誇りのこもった声でさやこは続ける。
「劣等感まみれの私を、好転させてくれたのがメイク。私の人生を大きく変えたのは、男の存在以上にお化粧なんですよ」
ホルモン屋さんに来る前、実はご自宅にお邪魔していた。整頓された広いおうちは、メイクのための部屋かのように色とりどりの化粧道具が大量に、そして計算され尽くして並んでいた。
雑誌を見ながら新しいメイク法を研究するのが最も充実した時間だという。美容部員としてお客さんをキレイにするために努力を惜しまない彼女の原点は、自分自身がメイクで変わったことによる。
「大学入って化粧を始めて、男からも女からも認められた。自分への興味も湧いてきて、そうしたら他人への興味も湧いてきて。どんどん変わっていったんです」
化粧をすることで、男からはもちろん、なにより“クズ”と思っていた女たちにも認められるようになった。「女性は、綺麗になろうと努力をしている女性に優しいから」とさやこは言うが、実際そうだろう。
化粧で自分が大きく変われたさやこは、大学を卒業したのちに美容部員になることを選んだ。
「キレイになったら人生は絶対得じゃないですか? でもキレイになりたいなんて、みんな恥ずかしくて簡単には言えない。その思いを私は大切に汲み取りたいんです」
キレイになれば人生変わっていくのは分かっていても、それを口にすると今までの自分を否定するような気がして、認めるのはなかなか難しい。
「どんなに綺麗事言っても、やっぱり女はキレイかどうかで人生変わるじゃないですか。女は、キレイじゃなきゃダメってされてしまってるんです。キレイは絶対、得なんです」
外見コンプレックスにずっと悩み、少しでもキレイになりたいと奮闘し続けた彼女の、その言葉はものすごく重い。
彼女は“キレイであること”にこだわりすぎだ、と思うだろうか。でも私は、「キレイである方が得」という彼女の言葉に、思わず頷いてしまう。頷くに値する経験を、たくさんしてきたように思う。
生まれ変わったら美人になりたいけど
そうして彼女は今、毎日毎日店頭に立ち、お客様にメイクを施し続けている。
「私は、女の人がどうやったらキレイになるか分かるんです」
給料も低いカツカツな生活だけど、キレイになりたいという女性の思いから逃げたくない、とさやこは言う。
「メイクで絶対、周りの評価は変わるんです。そうしたら、自分も絶対変わるんです。変わりたいって思う心ってすごく素敵だから、私はそれをお手伝いしていきます」
酒まみれではあるけれどあまりにもかっこいいその口調に、そうだそうだ! と相槌をうち、2人で浴びるように飲んだ。
美人には生まれなかったのにケナゲに生きる自分たちを「偉いねえ」なんてお互いに褒めちぎった。そしてそのあとに「生まれ変わったら美人になりてー!」なんてかっこ悪いセリフを、2人でアホほどに繰り返した。今の自分が愛おしい気持ちも本当だし、でも美人が羨ましいと思う気持ちも本当だ。
さやこちゃん、24歳、美容部員。自分のコンプレックスに向き合い、コンプレックスを持つ自分を認め、強く生きている女の子がいた。
本当なら彼女の心の奥を覗くのが私の仕事なのに、あまりにも飾り気のない等身大のさやこは、何も隠していないように映った。素直にコンプレックスを感じ続け、それこそを日々の原動力にし、「キレイになりたい女性の力になりたい」と語る眩しい姿があった。
こちらの連載、まだまだ続きます。次回は群馬県で働くキャバ嬢に、話を聞きに。
どれだけ自分のコンプレックスと向き合って、あなたは生きたいですか?